9月に愛知県で開催するアジア大会のカヌースプリント競技の競技責任者である田村一樹さん
運営の醍醐味は“決断”にある
――「選手として漕ぐ楽しさ」と「運営として大会を作る楽しさ」、その違いは何でしょうか?
田村:選手としては“大会で記録を追い求める”楽しさがありました。一方で運営は全く別のやりがいですね。
全てのレースを円滑にスタートさせ、選手が持てる力を最大限に発揮できるよう先回りして環境を整え、大会を完遂させる。その過程には、選手時代とはまた違う大きな満足感があります。
半分は責任感ですが、自分たちが準備した舞台で選手が最高のパフォーマンスを発揮してくれる姿を見るのは、やはり嬉しいですし、何事にも代え難いものがあります。
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――運営において、最も困難な判断を迫られるのはどのような場面でしょうか。
田村:天候など、刻一刻と変わる状況下での「判断」ですね。時には競技の中止や中断を決めなければなりません。今後の予報を睨み、翌日以降のスケジュールに収まるかを見極め、大会全体を成立させるためのベストな選択をする。これは非常に責任の重い、難しい作業です。
中止を決断する時は申し訳ない気持ちになります。選手が集まり、この日のために調整してきた。その場を提供できなかった悔しさは、私自身も元選手ですから痛いほどわかります。
ただ、逆に悪条件の隙間を縫って「この判断をしたからこそ、全種目を無事にやり切れた」という時は、大会に貢献できたという強い充実感を得られますね。
――自然という不確定な要素を相手に、大会を成立させるための最適解を導き出していく。まさに、風を読み、フィニッシュラインまで駆け抜けるカヌー競技そのもののようですね。
田村:そうかもしれません。一番簡単な道(中止)を選べば悩まなくて済みますが、私たちは最後まで「その時に取れる最善の判断」にこだわりたい。
静水面で行われるスプリントは、コンディションが安定してこそ選手の力が正当に評価されます。対自然というコントロールできないものを相手に、いかに公平な舞台を整え、選手を最高のパフォーマンスへと繋げられるか。その“舵取り”こそが、運営の使命だと思っています。
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