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グラウンドでも、朝倉はただの“逃げ”では終わらせなかった。2R、インサイドガードから繰り出したヒジ打ちは、クレベルに明確なダメージを与える一撃となり、会場の空気を一変させた。判定においてダメージを最重視するRIZINの基準で、この一瞬が勝敗を大きく左右したと言っていい。
その裏には、コーチ竹浦正起と二人三脚で練り上げた戦略がある。竹浦は「ガード内での頭と手の位置」「バックを取られない動き」を徹底的に叩き込み、未来がその通りに試合で実践したことを評価した。ヒジ打ちも、まさに“練習通り”の一撃だった。
勝つために、無理をせず、逃げもせず、戦いの中で最も合理的な選択を取り続けた。集中力は極限まで研ぎ澄まされ、観客の歓声すらも耳に届かなかったという。
進化した両者──前戦が与えた心理的影響

朝倉が冷静かつ的確に攻めた背景には、5月に行われた鈴木戦での勝利が大きく影響していた。復帰戦を勝ち切ったことで、メンタルも“無敵モード”に。増上寺での会見では笑顔すら見せ、自信が溢れていた。
対するクレベルは、前回試合でシェイドゥラエフにキャリア初のKO負けを喫したばかり。そのトラウマが、今回の試合で打撃を避けるという消極的な姿勢につながった可能性もある。打ち合わずにタックルに頼った結果、効果的な攻撃と認められにくくなった。
RIZIN CEO・榊原信行は、「打撃を避けて組みにいくのは消極的にも見える。判定は“フィニッシュに近づいたかどうか”を重視している」と語る。つまり、最後まで試合を極めにいこうとした姿勢が評価される世界。今回はその差が勝敗を分けたのだ。