市場コーチは常識を覆す特訓で足立和也選手をW杯日本人初の快挙へ導いた
前編では、現役時代の挫折から自分の経験則をすべて捨てるという「指導者としての覚悟」を語ってくれた市場大樹さん。後編では、愛弟子・足立和也選手と共に行った、常識破りの猛特訓の裏側に迫る。
陸上トレーニングの完全撤廃、夜間のライトアップ練習、そして2016年ワールドカップでの日本人初となる歴史的メダル獲得――。それは一過性の「奇跡」ではなく、世界と対等に戦い続けるための「勝つ仕組み」の構築。2028年ロサンゼルスオリンピックへ向けたアジアの激戦、そして市場さんがカヌー界の未来に捧げる新たな戦略とは…(取材・記事/大楽聡詞)
<前編にコチラ>
◼️1日6時間の激流特訓――常識を覆した2年間
――指導者としての覚悟を決めた市場さんは、足立選手とどう世界へ挑み始めたのですか。
市場:最初は私もまだ動けましたから、水上に一緒に浮かんで技術を見せる「トレーニングパートナー」として引っ張っていました。
しかし、お互いに現役レースに出場していると、ジャパンカップなどでの出走順が近くなり、彼のレースを客観的に見ることができなくなってしまいます。「自分は今、何のために大会に来ているのか」が分からなくなる時期がありました。
そんな時、また一つ大きな転換期がありました。私は2008年頃からコーチングを学ぶため、毎年チェコへ渡っていました。東京オリンピックで金メダルを獲得したトップ選手を育てた名コーチの元に弟子入りし、彼の指導を受けながら最先端のコーチングを5年ほど学んでいたのです。
当初は、足立がある程度の実力をつけたら、そのチェコの最強チームに送り込もうと考えていました。足立も何度かチェコの合宿に参加したのですが、そこで彼は過酷な現実に直面します。
どれだけ実力があっても、海外のチームに行けばエースが最優先され、日本人はどうしても「4番手」や「ゲスト」の扱い。これでは100%の評価もトレーニングも受けられない、と。
――それは歯痒いですね。
市場:そんな時、足立から「もう海外のチームの下に入るつもりはありません。市場さんがコーチとしてやっていくと決めたなら、本気で腹をくくって、この『市場・足立』のチームとして世界と戦ってほしい」と、強い覚悟を求められました。私に逃げ道をなくしてくれたのです。
「分かった。それならもう、他国を頼るような考え方はやめよう。この2人で、世界トップの背中が見えるところまで一気に行こう」と決意しました。2011〜2012年頃のことです。
