2028年ロス五輪へ! 愛弟子の出場を目指し、指導に励む市場大樹コーチ
――ものすごい行動力と覚悟ですね。
市場:思い切った行動をする奴だと思いましたが、「それぐらいの規格外な人間でなければ、世界を相手に戦えないのかもしれない」とも感じました。
当時は山口国体のチームメンバーやワイルドウォーターの選手たちと同じ敷地内で暮らしました。合宿所に新メンバーが1人増えたような感覚で、毎日泥だらけになりながら一緒にトレーニングを始めました。
――そこから、市場さんと足立選手の「二人三脚」の世界への挑戦がスタートしたのですね。
市場:ただ、そこからの指導は困難の連続でした。のちに2016年リオデジャネイロオリンピックで羽根田卓也選手が銅メダルを獲得するのですが、当時は日本のカヌースラローム界において、世界で成功した指導者や選手など一人もいない状態だったからです。しかし、この前例のない挑戦が、私の人生における最大の転換期でした。
それまでは、どこか「頼まれたからサポートする」というスタンスのトレーニングパートナーに近い感覚でした。しかし、一人の人間が人生を賭けて飛び込んできた以上、私にも重大な責任が生じます。
私は、自分自身の現役時代の経験則や知識を「すべて間違っている、一切役に立たない失敗談だ」として、すべて捨てる決断をしました。
――ご自身の成功体験すらも、あえて否定したのですか。
市場:そうです。もし私のやり方をそのまま教えてしまえば、私と同じレベルの選手、つまり「世界の壁に跳ね返されて途中で諦めざるを得ない選手」をもう一度再生するだけになってしまいます。
「私には指導者がおらず、環境も整っていなかった」という言い訳はありますが、それでも世界では勝てなかった。
だからこそ、今までの自分の古い常識をすべて切り離し、「世界基準の新しいコーチングとは何か」をゼロから死に物狂いで構築し直さなければならなかったのです。ここが、私のコーチとしての本当のスタートラインでした。
<後編へ続く>
プロフィール
市場 大樹(いちば だいき)1977年5月29日生まれ。高校時代に日本選手権を制し渡欧するも、世界の壁に直面し一度は競技を離れる。2004年に復帰。その後、愛弟子・足立和也の覚悟に触れ「自らの過去をすべて捨てる」決意をし、独自の“勝つ仕組み”を構築。2016年ワールドカップで日本人初メダル獲得へと導いた。現在は2028年ロス五輪、そしてカヌーを「誰かの生きる活力」にする使命へ向け、挑戦を続けている。
