4月、大雨の影響でテストイベントが中止。駆けつけた太田稔彦市長に状況を説明する本田氏
26年9月、アジアの視線が愛知県に注がれる。アジア競技大会カヌースラローム競技の責任者を務める本田泉氏は今、かつてない試練の中にいた。
4月の大雨により、心血を注いだコースが流失。河川法の厳しい制約、刻一刻と変わる水位――。自然という巨大な壁を前に、なぜ彼はこれほどまでに「最高の舞台」に固執するのか。その原動力は、単なる大会の成功ではない。
約40年前、三好池のほとりで始まった小さな挑戦は、いまや日本カヌー界の未来を懸けた「激流のバトン」へと姿を変えていた。杜若高校の躍進、そして「パドルを離さない環境づくり」へ。本田氏が語る、アジア競技大会の舞台裏と、その先に描くカヌー大国へのグランドデザイン。(取材・記事/大楽聡詞)
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■自然との戦い、知恵の絞り合い。アジア競技大会への決意
――いよいよ9月にはアジア競技大会が開催されます。本田さんは今回、カヌースラローム競技の「スポーツマネージャー(競技責任者)」という重責を担われています。現在の準備状況はいかがでしょうか。
本田:正直に申し上げて、今は現場の整備と調整の毎日です。4月に矢作川で行われたテストイベントは残念ながら悪天候で中止となりました。その反省を活かし、本番に向けて気合を入れ直しているところです。
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――自然の川を舞台にするスラローム競技ならではの苦労がありそうですね。
本田:実は4月の大雨で、心血を注いで作り上げたコースの重要な箇所が一度流されてしまいました。現在は急ピッチで改修工事を進めていますが、激流が残る川の中に重機を入れ、岩を配置し直す作業は、想像を絶する困難の連続です。
先日の雨でも再び増水し、思うように水位が下がらない。まさに、一刻の猶予も許されない「自然との戦い」の真っ只中にいます。
それでも中部電力さんをはじめとする関係各所のご協力のもと、バイパスを活用して流量を緻密にコントロールするなど、あらゆる知恵を絞っています。
選手たちが本番で最高のパフォーマンスを発揮できるよう、揺るぎない「最高の舞台」を再構築することに、今、全力を注いでいます。
――コース作りにおいて、本田さんが「これだけは譲れない」と考えているこだわりは何ですか?
本田:安全性は当然のこととして、やはり「競技の質」ですね。実は、一級河川である矢作川では、外部から石を持ち込むことも、中にある砂を外へ持ち出すことも一切禁止されています。
つまり、今ある岩や素材だけを使って、アジアの強豪たちを唸らせるコースを作り上げなければならない。石一つ動かすにも、河川法という厳しい制約の中で「どうすればいいのか」と知恵を絞らせています。
限られた条件の中で、いかに選手が「もう一度ここで漕ぎたい」と思えるような、タフで戦略的なコースを構築できるか。そこが現場責任者としての、一番の腕の見せ所であり、譲れないこだわりです。
