シダックス時代の杉本忠氏(写真/本人提供)
現代野球において「160キロ」という数字は、もはや驚くべきものではなくなった。スピードガンが表示する数値に一喜一憂するジュニアアスリートが多い中、元甲子園準優勝投手の杉本忠氏は「130キロでも十分に通用する」と断言する。名将・野村克也氏から「打者が嫌がることをせよ」という教えを直接受け、技術で身体能力の差を埋めてきた。今回は、数値の呪縛から解き放たれ、本質的な「投球の質」で打者を制する極意を聞いた。(取材・文/大楽 聡詞)
【第2回:技術論】数値の壁を突破する。身体能力の差を補う「質の磨き方」
――近年は160キロを超える投手が珍しくなくなりました。どうしても球速という「数値」に注目が集まりがちですが、杉本さんは「130キロでも戦える」とおっしゃっています。
杉本:18.44メートルの距離で、ボールをバットに当てるという技術は、球技の中でも極めて難易度が高いものです。投手からすれば、160キロのボールと130キロのボールを打たれることの間に、実はそれほど大きな差はないと考えています。
甲子園・都市対抗野球準優勝ピッチャー、次世代に繋げたい想い(2)
――一般的には「速いほうが打たれにくい」と思われますが、なぜそう言い切れるのですか?
杉本:どんなに速いボールでも、人間は「慣れる」からです。バッティングセンターと同じで、同じタイミング、同じ軌道で来るボールなら、160キロでもいつかはタイミングが合ってしまいます。
――では、球速がなくても抑えるための秘訣は何でしょうか。
杉本:「バッターのタイミングをいかにずらすか」です。速いボールを投げようとすると、物理的に腕の振りやフォームが速くなりますが、バッターはそれを手がかりにタイミングを合わせます。私は、一打席の中で一度も同じタイミングで投げないという意識でマウンドに立っていました。
――野村克也監督からも、そのあたりの教えがあったのでしょうか。
杉本:はい。野村監督からは「バッターが嫌がることをしなさい」と徹底して叩き込まれました。どんなに絶好調の投手でも、なぜかタイミングが合ってしまう天敵のような打者が存在します。そこに気づいてから、「いかにタイミングを合わせないか」を追求するようになりました。
――スピードよりも、技術で勝負するということですね。
杉本:そうです。速い球を投げようと力むと、コントロールを乱すリスクが高まります。それよりも、自分が一番コントロールできるスピードで、緩急や配球を駆使して「1球でアウトを取る」ことを目指す。三球三振は格好いいですが、理想は1球で終わらせること。
打者に「打たせる」技術を磨けば、130キロ台でも十分にプロの世界で通用します。私の後輩で、プロで大活躍した武田勝投手(元日本ハム)がそれを証明してくれました。
<#3へ続く>
プロフィール
杉本忠:1975年生まれ千葉県出身。父と兄の影響で小学生から野球を始める。その後、拓大紅陵に進学。高校3年で甲子園に出場し準優勝。大学卒業後、ヨークベニマルで活躍。だが野球部廃部に伴い、シダックスに移籍。野村克也氏より指導を受け、2003年の都市対抗野球大会でチームを準優勝に導いた。現在は、地元高校で投手の臨時コーチを務める。
編集/まるスポ編集部
