シダックス時代の恩師・野村克也氏(左)と杉本忠氏(写真/本人提供)
「野村ID野球」――その真髄は、単なるデータの活用に留まらない。第3回となる今回は、シダックスで野村克也氏から直接その教えを授かった杉本忠氏に「思考の整理」について伺った。彼が説くのは、マウンドに立つ前に終わらせておくべき「環境の整理」。球場の風、光の加減、そして中継ぎ投手ゆえに直面する「荒れた足場」……。名将が重要視した、どんな悪条件も武器に変える「準備の極意」に迫る。全4回(取材・文/大楽 聡詞)
【第3回:思考論】知恵で勝つ準備術。野村克也氏から学んだ「整理の力」
――野村監督の代名詞でもある「ID野球」では、事前の準備が重要視されますが、杉本さんはどのような準備をされていたのですか?
杉本:相手チームのデータはもちろんですが、それ以上に「環境」の整理を大切にしていました。球場の広さ、風向き、そしてマウンドの状態です。
【杉本忠】甲子園・都市対抗野球準優勝ピッチャー、次世代に繋げたい想い(3)
――マウンドの状態、ですか。
杉本:私は中継ぎとしての役割が多かったので、自分が登板する時にはすでにマウンドが掘れて汚れていることが多いんです。球場によってマウンドの高さも違いますし、昼と夜では視界も変わります。それらを事前に頭に入れておくだけで、対応力が変わります。
――天候への対応も大切ですか?
杉本:非常に重要です。今は雨が降ると練習を休むチームも多いですが、公式戦は少々の雨では中止になりません。ぬかるんだマウンドで踏み込んだ足が滑る感覚、雨でボールが滑る感覚を練習で経験しているかどうか。劣勢な状況になればなるほど、事前のイメージの有無が勝敗を分けます。
――わざわざ雨の日を待つのも難しいですが、意図的に状況を作ることも?
杉本:できますね。私は現役時代、あえてマウンドに水を撒いてぬかるみを作り、最悪のコンディションで練習することもありました。試合中に「中断するかも」と心が揺らぐとパフォーマンスは落ちます。どんな状況でも「やるんだ」という覚悟を決めるための準備が必要なのです。
――それは野球に限らず、すべてのアウトドアスポーツに通じる教えですね。
杉本:結局、準備というのは「想定外をなくす作業」なんです。どんな状況でも自分のパフォーマンスを発揮するために、最悪のコンディションすら味方につける。そのための「知恵」と「整理」こそが、体格や才能の差を埋める最大の武器になると信じています。
<#4に続く>
プロフィール
杉本 忠(すぎもと ただし):1975年生まれ千葉県出身。父と兄の影響で小学生から野球を始める。その後、拓大紅陵に進学。高校3年で甲子園に出場し準優勝。大学卒業後、ヨークベニマルで活躍。だが野球部廃部に伴い、シダックスに移籍。野村克也氏より指導を受け、2003年の都市対抗野球大会でチームを準優勝に導いた。現在は、地元高校で投手の臨時コーチを務める。
編集/まるスポ編集部
