
5月4日、東京ドームを満員にした『RIZIN男祭り』。引退を経ての復帰戦で、朝倉未来は前フェザー級王者・鈴木千裕を相手に“勝たなければ意味がない”という覚悟を貫いた。派手なフィニッシュでも、華やかなマイクパフォーマンスでもない。そこにあったのは、ただひたすらに勝利を追い求めた一人の男の「静かな熱」だった。
2025年5月4日、東京ドーム――
「男祭り」の熱狂、その中心にいたふたり

『RIZIN男祭り』。観客4万2706人。かつてない熱気に包まれたその夜、もっとも会場の空気を震わせたのは、セミファイナルのカードだった。朝倉未来 vs. 鈴木千裕。
引退からの再起、すれ違った“世紀の再戦”
本来なら、朝倉未来の相手は平本蓮だった。昨年7月の敗戦を経て、引退を表明した朝倉。だがRIZINブレイクの象徴とも言える男が、このままリングを降りるわけがなかった。
再戦の舞台は東京ドーム。あの那須川天心vs.武尊の伝説をなぞるように、『THE MATCH 2』の名で発表されたのは大晦日。ところが2月、平本の負傷により計画は崩れる。代役探しが始まり、やがて大会名は『RIZIN男祭り』へと変更された。
代役以上の相手、鈴木千裕の男気

朝倉の前に立ったのは、前フェザー級王者・鈴木千裕。大晦日にクレベル・コイケに敗れ、再起戦でも敗北。万全ではないどころか、常識的には試合を受ける状況ではなかった。だが、彼は踏み出した。
「充電しようと思ったんですけど、治っちゃうんですよね俺って」
鈴木は笑っていた。その言葉の奥に、覚悟が見えた。
迎え撃つ朝倉の覚悟とリスク

朝倉にとっても、この試合はリスクでしかなかった。鈴木の持ち味は、暴風のような打撃のラッシュ。朝倉はキックを含めて3連敗中で、KO負けも続いていた。下馬評では鈴木優勢の声もあった。
嵐を封じた静かな強さ

だが、試合が始まると、朝倉は鈴木の嵐を完璧に鎮めた。
序盤のテイクダウン。コーナーに頭を押し込み、徹底して動きを封じた。打撃を交えるそぶりを見せながら、機を見てグラウンドへ持ち込む。地味だが、実に堅実で、意味のある攻防。
「全然楽しくないですよ。あんなパンチ振り回されたら、こっちは必死ですよ」
朝倉は言った。泥臭くてもいい。絶対に勝つ。その一心だった。